本研究成果のポイント

  • 秋田県と鹿児島県の温泉から、高温環境で生育するレプトリンビア属(*1)の藍藻(*2)を発見しました。2つの藍藻は見た目や遺伝子の特徴が異なり、それぞれ異なる方法で温泉環境に適応している可能性が示されました。
  • 温泉に生息するオタマジャクシの腸内DNAを調べたところ、温泉で見つかった藍藻に近いDNAが検出されました。これにより、オタマジャクシが藍藻を摂取している可能性が示されました。
  • 別の給餌試験では、この藍藻がカエルやニワトリの暑さへの強さを高める可能性が示されました。家畜や養殖生物の暑熱ストレス対策への応用が期待されます

概要

Researcher Satoshi Komoto of the Hiroshima University Amphibian Research Center, graduate student Hinayo Ogino (at the time), associate professor Takeshi Igawa, and Linh of the University's Graduate School of Integrated Life Sciences. Through joint research with the Yuzawa City Geopark Promotion Council, Tokyo University of Agriculture, and the Japan Microalgae Technology Association, a research group led by Researcher Cao (currently at the University's Semiconductor Institute of Technology) and Professor Ryuichi Hirota revealed the characteristics and genomes of two strains of thermophilic filamentous cyanobacteria newly isolated from hot springs in Japan, and demonstrated the possibility of a food web connection with tadpoles living in the same area.
研究グループは、秋田県湯沢市の川原の湯っこ(*3)と鹿児島県口之島のセランマ温泉から藍藻を分離し、それぞれAkita株(*4)、Seranma株(*5)と命名しました。全ゲノム解析の結果、両株は形態や色だけでなく、光合成や代謝などに関わる遺伝子構成にも違いがあることが分かりました。
さらに、両温泉域に生息するオタマジャクシの腸内DNAを解析したところ、特に口之島のリュウキュウカジカガエルでは、同地で分離したSeranma株に近いレプトリンビア属由来配列が検出されました。この結果は、自然環境でオタマジャクシが温泉の藍藻を摂取している可能性を示すものです。
本研究成果は、2026年9月9日に国際科学誌『Frontiers in Microbiology』に掲載されました。

背景

藍藻(シアノバクテリア)は、光合成によって有機物を作る水界生態系の主要な一次生産者です。特に高温の温泉環境では、藍藻が食物網を支える重要な役割を担うと考えられていますが、温泉に適応した藍藻の特徴や、そこで暮らす動物との関係は十分に分かっていませんでした。
研究グループはこれまでに、鹿児島県口之島や秋田県湯沢市の温泉にオタマジャクシが生息することを報告してきました。これらの温泉では、オタマジャクシと藍藻を主体とする微生物マット(*6)が共存しており、藍藻がオタマジャクシの食物になっている可能性が考えられていました。

Contents of research results

1. 2つの温泉から好熱性糸状藍藻を分離
研究グループは、川原の湯っこ(水温43.8℃)とセランマ温泉(水温50℃超)で微生物マットを採取し、実験室で培養・純化しました。その結果、レプトリンビア属に近縁な糸状・非異質細胞性の藍藻を各地点から1株ずつ分離できました。Akita株は比較的まっすぐな青緑色の糸状体を示し、Seranma株はゆるく湾曲・コイル状になった褐色の糸状体を示しました(命名については正式な新種記載ではなく、本研究で用いる株名として命名したものです。)

図1 新たに分離した好熱性糸状藍藻。(A)L. sp.Akita、(B)L. sp. Seranma。スケールバーは20µm。

2. ゲノムと光応答から見えた株ごとの違い
 Nanopore社のロングリードシーケンサー(MinIONおよびFlongleフローセル)を用いて全ゲノム配列を取得したところ、Akita株のゲノムは約683万塩基対、Seranma株は約805万塩基対で、完全性はそれぞれ95.5%と99.6%でした。比較ゲノム解析(*7)では、Akita株に窒素化合物代謝や遷移金属イオン結合に関わる遺伝子群が、Seranma株にDNA転移やトランスポザーゼ活性に関わる遺伝子群が特徴的に多いことが分かりました。Seranma株とその近縁株では、光合成やフィコビリソームに関わる遺伝子群も特徴的でした。
Seranma株は白色光下で褐色、赤色光下で緑色を呈し、照射する光によって吸収スペクトルが変化しました。また、遠赤色光への応答を制御することが知られるrfpABC遺伝子クラスター(*8)を保持していました。一方、Akita株では明瞭な色の変化や同遺伝子クラスターは確認されませんでした。
さらに、既知ゲノムとの比較から、Akita株ではタンパク質品質管理やDNA修復に関わる候補遺伝子、Seranma株を含む系統ではシャペロン調節因子CbpMが、高温適応に関係する可能性のある候補として抽出されました。

3. Detection of DNA similar to sympatric blue-green algae in tadpole intestines
腸内細菌叢の16S rRNA遺伝子メタバーコーディング(*9)では、合計351属が検出されました。レプトリンビア属由来配列は、秋田県のカジカガエルでは最大1.3%で、37℃地点の個体からは検出されませんでした。一方、口之島のリュウキュウカジカガエルでは調べた全個体から検出され、個体によっては腸内から得られた配列の最大約21%を占めました。
リュウキュウカジカガエルから得られたレプトリンビア属由来6,327リードを独自の参照データベースと照合したところ、多くが同じセランマ温泉から分離したSeranma株の16S rRNA遺伝子配列に最もよく一致しました。これは、同所的に生息するオタマジャクシがSeranma株を摂取している可能性を支持します。

図2 カジカガエル属オタマジャクシの腸内メタバーコーディング結果。色の付いた各バーが1個体を表し、各色の割合が各種類の微生物の割合を示す。赤褐色がレプトリンビア属由来配列。

温泉に両生類が生息することは世界的に見ても珍しい現象であり、オタマジャクシの高温耐性の獲得については遺伝的な側面と環境的な側面が考えられます。今回の結果は、環境的な側面としてレプトリンビア属藍藻類の摂食が関係している可能性を示唆しています。

今後の展開

本研究では、温泉から分離した藍藻の形態・光応答・ゲノム解析と、同じ場所に生息するオタマジャクシの腸内DNA解析を組み合わせることで、温泉環境における藍藻とオタマジャクシの潜在的な食物連鎖を示しました。これにより、高温環境の生態系を微生物と脊椎動物の相互作用の観点から理解する手掛かりが得られました。
一方で、本研究はオタマジャクシが藍藻を摂取している可能性を示したものであり、藍藻が栄養や高温耐性に寄与することを直接示したものではありません。今後は給餌実験や遺伝子解析などを通じて、藍藻の生態的役割と両生類の高温適応との関係を検証します。

藍藻を活用した暑熱ストレス対策への展開
本研究で分離したAkita株を用いた別の給餌試験では、ネッタイツメガエルやニワトリで暑熱耐性の向上を示唆する結果が得られています。これらの成果を基に、広島大学はレプトリンビア属藍藻を活用した飲食品や飼料等に関する特許を出願しており(特開2026-039695)、今後は家畜や養殖生物の暑熱ストレス軽減技術への展開が期待されます。

用語解説

(*1) Leptolyngbya(レプトリンビア):細い糸状体を作る藍藻の一群。分類学的に複雑であるため、本研究では複数の系統を含む「Leptolyngbya近縁群」として扱い、正式な種同定は行っていない。
(*2) 藍藻(シアノバクテリア):酸素発生型光合成を行う細菌の一群。水域や陸上など広い環境に分布し、一次生産者として食物網の基盤を支える。
(*3) 川原の湯っこ:秋田県湯沢市にある温泉。温泉水が流れ込む環境には、藍藻を主体とする微生物マットやカジカガエルのオタマジャクシが生息しており、本研究ではレプトリンビア属藍藻の「Akita株」を分離した調査地点。
(*4) Akita strain (Akita strain): A strain name given by a research group to thermophilic blue-green algae of the genus Leptolyngbia isolated from the "Kawahara no Yukko" hot spring in Yuzawa City, Akita Prefecture.
(*5) Seranma株(セランマ株):研究グループが鹿児島県口之島のセランマ温泉から分離したレプトリンビア属の好熱性藍藻に付けた株名
(*6) 微生物マット:藍藻などの微生物が層状・膜状に集積した構造。温泉などの極限環境でも形成される。
(*7)比較ゲノム解析:複数の生物・株のゲノム配列や遺伝子構成を比べ、共通点や系統特異的な特徴を調べる方法。
(*8)rfpABC遺伝子クラスター:一部の藍藻で、遠赤色光に応じた光合成装置の切り替えを制御する遺伝子群。本研究ではSeranma株に保存されていた(遠赤色光応答そのものの機能実証は今後の研究課題)。
(*9) 16S rRNA遺伝子メタバーコーディング:試料中に含まれる細菌・古細菌の16S rRNA遺伝子配列を一括して読み取り、どの分類群が含まれるかを推定する方法。本研究ではオタマジャクシ腸内の微生物由来DNAを調べた。

発表論文

掲載雑誌名:Frontiers in Microbiology
掲載日:2026年9月9日
論文タイトル:Comparative genomics and tadpole intestinal metabarcoding suggest a potential cyanobacteria-amphibian trophic link in hot-spring ecosystems
Author: Tetsushi Komoto, Linh T. Cao, Haruki Takayanagi, Hinayo Ogino, Haruto Koyama, Satoru Watanabe, Junpei Nomura, Ryuichi Hirota, Takeshi Igawa
DOI:10.3389/fmicb.2026.1871509

[Contact information]

広島大学 両生類研究センター 准教授 井川 武
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E-mail:tigawa*hiroshima-u.ac.jp

広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授 廣田 隆一
Tel:082-424-7749
E-mail: hirota*hiroshima-u.ac.jp

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(*は半角@に置き換えてください)

Source: https://www.hiroshima-u.ac.jp/research/news/99925